服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

アートスペースとしての廃校利用を考える②

アートによる廃校活用を、

にしすがも創造舎

NISHI-SUGAMO ARTS FACTORY

を具体的な事例として

見ていきたと思います。

 

 2016年に12年の歴史に幕を閉じました。

 

運営は家守事業と言われる形式で、

所有者は自治体ですが、運営は

アートネットワーク・ジャパン(ANJ)と

芸術家と子どもたちという二つのNPOです。

家守事業には、貸す側と借りる側の双方にメリットがある。貸す側の自治体からすれば、未使用の公共施設を有効に活用できるのみならず、外部団体の経験や知識に基づく発想に活用のアイディアを頼ることができる。借りる側からすれば、既存の施設を使用することでコスト面でのメリットがあるのみならず、社会問題ともなっている“廃校活用”には話題性があり、宣伝面での効果も期待できる。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

運営までの経緯。

豊島区が体制を整備し、

文化支援事業を立ち上げました。

豊島区では2003年に、「地域社会に関わる多様な主体との協働」を進めるために、NPOや地域活動団体との協働事業の提案を募集した(水田ほか編 2011: 20)。また、同年に新たに設置された豊島区文化商工部文化デザイン課は、「豊島区文化芸術創造支援事業」を推進することを決定しており、このような流れの中で、上記二つのNPOの事業提案が受け入れられたのである(蓮池 2007: 21)(2)。

ANJは、稽古場運営と若手の育成をする企画、「芸術家と子どもたち」は、子どもを対象としミュージアム事業(「まなびの場、あそびの場をつくる」)の企画というように、もともとは別の企画を提案していたが(水田ほか編 2011: 20)、双方の提案が豊島区に認められた。

にしすがも創造舎は、豊島区に、活用している廃校を現状復帰の状態で返還することを求められているために、大々的なリノベーションを行わず、教室、体育館、校庭をほぼそのままの状態で使っている。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

アーティストにとっての意義

「場」と「関係性」

まずは、稽古場の確保という大きな意義がある。「公共施設を重い荷物を持って転々とし、借りられる場所があっても演劇禁止」ということもある。だが、にしすがも創造舎によって「たとえ一週間や10日でも集中して創作に励める劇団が増えたこと」には、極めて大きな意味がある。また、子ども、すなわち「飽きたり泣いたりする手ごわい観客」と対峙することで、アーティストにとって貴重な経験になるという声もあった(水田ほか編 2011: 45-46)。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 地域住民にとっての意義

「場の存続」と「交流」

その学校の出身者にとっては、学校が残るというメリットがある。出身者にとっては、学校は単なる教育施設であるのみならず、“思い出”の場所である。地元を離れていた卒業生が帰郷した際に、(旧)朝日小学校に立ち寄り、にしすがも創造舎として活用されていることに驚きつつ喜んだというエピソードもある。

また、芸術をつくる、鑑賞するということにおいては、次のような特徴が際立っている。まずは、芸術創作プロセスに地域住民が参加することで、アーティストと地域住民の交流が実現したことである。また、地域住民の世代間交流も促進され、「江戸川乱歩」という地域資源を(再)発見するためのイベントもあった。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

廃校という空間が生む効果

文化ホールや美術館ではなく、廃校という特殊な場であったことが、アートを取りまく状況に与える影響はあるのだろうか。例えばアーティスト側から創作に関して、次のような意見があった。普通の都内の稽古場と違い、そこには「良い意味での無駄な空間」がありリラックスできる。さらに教室や廊下など、「かつて馴染んだ空気感」があるために、「ゆっくりと創作できる環境がある」との声もある(蓮池2009: 10)。

さらに興味深いのは、廃校が活用されてこのような状況がつくられていく中で、アートと、観客もしくは鑑賞者との間に「あたらしい関係」がつくられたことである。文化施設や文化ホールでの演奏会に比べると敷居が低く、懐かしい場所である教室には、安心感から来る居心地の良さもあるだろう。

また、校庭で映画上映会が開催されたときには、周りに迷惑をかけない程度であれば会話をしながら鑑賞することも許された。映画が、映画館で座って静かに鑑賞するもの、あるいは家で私的に見るものから、公共の場でときに話をしながら皆で見るものへと、その性質を変えたのである。

つまり、アートと観客の関係が変化することで、ある意味でアートの性質それ自体までもが変容したのである。アートに対するアクセスが容易となり(=openとなり)、皆に共有され得る(=commonとなる)形態へと変貌したのである。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

アートと経営

文化ホールや文化施設をつくるためには、当然ながら莫大な費用がかかる。それが公共施設であれば多額の税金が投入されているために、昨今では経営能力や採算性という観点が重視されるようになってきた。「ハコモノ批判」は、しばしば合理的な経営に帰結する。また特に、「現在の指定管理者制度という枠組み」に対しては、「業績向上や効率的経営の短絡的数値評価に縛られている」という指摘もなされている(藤野 2011: 327)。

したがってここで、「アート(芸術)と経営」の齟齬という問題が生じることになる。

アートと採算性、アートと経営や経済合理性との関係は、確かに難しい問題である。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

これからの文化政策

既存建造物の活用による場の整備

21世紀の芸術創造拠点は、必ずしも新設の施設でなくてもいいのだと筆者は考えている。創造するためには、何らかのアトリエ、ホール、稽古場などのスペースが欠かせない。音を出せたり、大道具を作ったり、夜遅くまで使えたりなど、創造的な環境を整える必要がある。しかし、バブル経済期に立てられた豪華な自治文化施設の二の舞になってはいけない(松本 2011: 227-228)。

莫大な建設コストや維持管理費が、逆に事業予算の縮小を招くこともある。したがって考えるべきなのは、「既存の場の活用」ということになる(松本 2011: 228)。では、その「既存の場」を、どこに見出すことができるのだろうか。

松本は、「人々の記憶が集合された地域や場所」がそれに相応しいとも主張しているが(松本2011: 228)、廃校はこれら全ての基準に合致するのではなかろうか。

権安理 廃校の可能性と公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

最後に

2回にわたってアートによる廃校活用の

意味を様々な視点から見てきました。

アート分野が抱える課題やニーズを、

廃校が持つ特徴がカヴァーできつつ、

所有者である自治体や地域住民にとっても

プラスに働くことを示唆してくれました。

アートスペースとしての廃校利用を考える

民間活用、都市農村交流ときて、

今回のテーマは「アート」です。

 

ここ最近はビジネスパーソンの方々も

アートを意識している人が

多くなりましたよね。

 

山口周さんが書いた美意識についての

本がベストセラーになりました。

https://www.amazon.co.jp/世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか-経営における「アート」と「サイエンス」-光文社新書-山口-周/dp/4334039960

 

また地域づくりにおいても「アート」という

キーワードは現在進行形で注目されています。

芸術祭やビエンナーレを開催する地域も

ここ10年で増えてきています。

自治体もアートが課題が山積である地域の

突破口になるのではないか、

と期待を寄せています。

 

今回は、立教大学の権安理さん論文、

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廃校の可能性と芸術の公共性

ーアートスペースとしての廃校利用ー

立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

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を参照してアートによる廃校活用の意味を

考えていきたいと思います。

 

背景・状況

2014年段階の廃校活用の内訳をみると、

活用されてる5100校のうち107校が

アートに関係する施設となっています。

 

またアートと施設の背景を見てみると、

ハコモノ行政(1970-80年代)によって、

アートとハコモノの関係性が問われた

経緯があります。

かつて日本で、文化ホールや文化会館などのハコモノ」が多く建設された時代があった。この時代には、多額の税金を投入してつくったものの、それが有効に活用されていないことが問題視されてもいた。だが他方で、文化系の団体から、稽古場や創作、交流の場の不足が指摘されてもいた。質の高い文化ホールの数はむしろ不足している(森1991:4-9)。

権安理  廃校の可能性と芸術の公共性立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016) 

文化ホールが文化的なまちをつくる」というスローガンの下で、文化ホールの建設自体は肯定し、それが単なる建物ではなく、文化の「拠点」となることが重要であると主張した。「『行政の財産』としての文化ホールを『市民文化の拠点』につくり変えていく市民自治の営みが地域に市民文化をつくるのであろう」(森1991:30)。アートと施設もしくはハコモノの関係が、改めて問われたのである。

権安理  廃校の可能性と芸術の公共性(立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

権さんが主張していること。

第一は、廃校こそがパブッリックアートの場に適していることである。そして第二は、使われなくなった“公共施設”である廃校が、パブリックアートの場となることによって、“公共空間”となる可能性を持っていることである。教育をするための公共施設であった学校が、廃校となった後、パブリックアートの場となることで公共空間になる。施設(“ハコモノ”)から空間(“スペース”)への転換である。

権安理  廃校の可能性と芸術の公共性立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 

パブリックアートの定義

第一に、パブリックアートは私的に隠蔽されることなく、公開されるものである。ただし公開される場は、いわゆる“外”である必要はなく公共施設であるとも限らない。また、作品の所有者も重要ではない重要なのは公開性である。だが他方で、それは単に公開されれば、直ちにパブリックアートとなるわけではない。多くの芸術作品も美術館や博物館などで公開されている。したがって第二に、パブリックアート公開性で重要なのは、それが何らかの意味で、場と人とものの「関係の中」に置かれることである。

権安理  廃校の可能性と芸術の公共性立教大学コミュニティ福祉学部 紀要第18号2016)

 アートや文化・芸術の話をする時には、

言葉を定義付けさせることが重要です。

いろんな解釈がある中で、どの立場を

とるのかをはっきりさせることで、

有効なコミュニケーションが

できるようになります。

 

次回は具体的な事例を見ながら、

アートによる廃校活用を見てきたい

と思います。

都市農村交流を目指した廃校利用(千葉県鋸南町)②

今回は、千葉大学安田隆博さん・小川真実さんの

都市交流施設・

道の駅『保田小学校』

―都市と農山漁村をつなぐ,新たな交流拠点―

千葉大学  経済研究  第32巻 第2号  2017年9月)

の論説を参照して、さらに深く見て行きたいと思います。

 

保田小プロジェクトの「大きな指針」

具体化に向けて大きな指針となったのが,白石治和町長が示した学校の雰囲気を残し,町民が参加するステージを作るという方向性。

事業をやりたい方には,事業の場を,文化活動に取り組む人には発表の場を,小さなお子さんをお持ちの方には交流の場をというように,あらゆるタイプの町民の方に社会参加と交流の機会を提供する

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 58-59ページ

 

3つの特色

①住民発の取り組み

鋸南町の事例では,公共施設の再編統廃合という地域活力の喪失を引き起こす取り組みを,住民発のアイデアで雇用や仕事を生み出すための地域コミュニティの拠点へと生まれ変わらせたことに第一の特色がある。道の駅「保田小学校」が「新たな人々の学び舎」になるには,様々なソフトコンテンツの開発や充実が求められる。

今回のプロジェクトは,まずは拠点づくりというハードを先行させて町民の気運を盛り上げつつ,後追いでソフトを展開するという,ある意味まれなケースであったかもしれない。よって,ソフト事業はまだまだこれから,というのが実情である。今後は,かつて学校であったという背景を利点に,学びという視点から多彩な体験型メニューを生み出し,町内への回遊を進めていくことが,交流人口を加速させるための有効策の一つと考えている。

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 57ページ

開発されたソフトコンテンツの一つに

「みんなの家庭科室」があります。

これは新たな特産品開発を奨励するため

に作られた施設です。

またジビエや狩猟に関する体験ツアーの

企画も実施しています。

 

②最も苦慮した「設計」

外部の人的資源との連携が第二の特色といえる。廃校施設を地域振興の起爆剤となるコミュニティ拠点へと生まれ変わらせることに,民間活力を導入するために,設計事業者の一般公募を実施した。

行政では経験のない商業部分の計画・設計・運営をどうするか。(中断)商業部分を担う設計者は本プロジェクトの肝になる存在であり,いかにして商業部分の知識とアイディアを持つ最良な設計者を選定するかが最も苦慮した部分であった。

良い設計者を選ぶには,良い選考過程を整えることが重要である。良い選考課程とは,つまり「オープン」「公平」「公正」なことであり,そうした点で評価の高い著名な建築家の方々を審査員に迎え,平成25年10月に設計事業者を一般公募した。

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 52ページ

1次審査には37社の応募があり、

2次審査に進んだ6社には鋸南町の公民館で

公開プレゼンをしてもらいました。

そして審査の結果、最良の設計者と出会い、

またそこから「大学との連携」という

当初の計画では思いもしなかった効果を

生み出しました。

設計にも関わってくれた5大学の学生たちが,ワークショップの実施などを通じて町全体の活性化に参画する機会も増え,まちづくりの仲間として関係が深まっている。率先して専門知識を外部に求める姿勢があったからこそ,良質な支援者が集まる好循環が生まれてきた

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 57ページ

 

③道の駅の枠組みを活用

国家戦略の支援も第三の特色といえる。道の駅は国土交通省のヒット商品であり,1,100を超える施設が日本全国に展開している。また世界銀行の支援もあり,東南アジアでの社会実験が実施されることとなった。いまや,全国に点在する道の駅ネットワークが一つのブランになっている。

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 60ページ

 

最後に

初回は3つの主体(官・民・官民連携)

ごとにどのような枠組みの中で

推進・検討をしてきたのか、

2回目では保田小学校の3つの特徴を

切り口に、鋸南町ならではの廃校活用の

在り方をみてきました。

 

その中でもハードを整備してから

ソフトを充実させるという考え方

とても面白いですね。

この考え方は、下手をすると事業の失敗を

招きかねないです。一昔前の行政では

この考え方が当たり前でした。

要するにハコモノ行政のことです。

 

鋸南町でもハード→ソフトというプロセスは、

まさにハコモノ行政と同じですが、違うのは、

「町民が参加できるステージを作る」という

ビジョンがある事です。

 

さらにそのビジョンの実現には

ステージ(場・環境)が必要であり、

具体的なソフト開発よりも優先度が

高いです。

 

明確なビジョンがある事と、

ビジョンの肝が場を作る事という理由で、

ハード→ソフトというプロセスが

成り立っているのだと思います。

都市農村交流を目指した廃校利用(千葉県鋸南町)

「都市農村交流」というキーワードは、

中山間地域で地域づくりの話し合いの中で

よく出てくるテーマです。

 

廃校利用においても「都市農村交流」を

テーマとした施設は多く見られます。

 

今回はその中でもモデルケースとなりうる、

千葉県鋸南町 都市交流施設・道の駅安田小学校を

東京農業大学の豊島まゆみさん(博士課程)の

「廃校を活用した地域活性化に関する研究」

論文を参照して取り上げたいと思います。

 

千葉県鋸南町

20174月現在の人口は8,308人、高齢化率は44.0%。

町の主産業は農業・水産業と観光業である。

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出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p2

 

地域活性化における多様な国の枠組み

国は多様な施策を打ち出している。

内閣府は「小さな拠点づくりと地域運営組織の組成」による地域の再生

農林水産省は「都市と農村の交流の推進」

国土交通省は「道の駅」を経済の好循環を地方に行き渡らせる成長戦略の強力なツールと位置づけ

厚生労働省は雇用情勢の厳しい地域における「地域関係者の創意工夫を活かした雇用創出の取組み」を奨励するなどである。

地域はこれら施策を統合的に実践し、活性化に結び付ける必要がある。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p2

 

鋸南町の検討・推進プロセス

鋸南町の場合は官・民・官民連携とそれぞれが役割分担を

しながら拠点整備と組織の進化・発展を推進している。

 

官主導の「鋸南町都市交流施設整備事業」(農水省

平成24年度から平成28年度まで、農林水産省農山漁村活性化プロジェクト交付金を活用し、官主導で推進された基幹事業で、事業内容は、基本調査、実施計画、出荷組合立上げ、運営・テナント事業者募集、基本設計、実施設計、施工、加工所整備、PR事業と多岐にわたり、ハード整備と直結するソフト整備の事業を統合的に実施 

鋸南町の特徴①「開かれた施設を目指す」

文部科学省の廃校施設等活用状況実態調査[1]によれば、平成2851日現在、施設が現存する廃校5,943校のうち4,198校がさまざまな用途に活用されているが、体験交流施設等「地域に開かれた」利活用事例は239施設(5.7%) にとどまっており、廃校を「開かれた」施設として転用することの難しさが推察される。

鋸南町の特徴②「外部専門家の積極活用」

鋸南町の特徴③「担当者の固定化」

廃校活用を考えつづけ、積極的に専門知識を外部に求める姿勢を維持し、人材を探し続けることで、人が人を呼ぶ好循環を生み出すことができたという。また、行政側に、民間企業での勤務経験がある職員を事業期間を通じて配置しており、外部人材と行政の間や、施策間の連携をとる役割を一貫して果たしている。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p3

 

民主導の「都市農村共生・対流総合対策事業特徴」(農水省

平成264月、町内有志による地域活性化団体「ようこそ鋸南プロジェクト」が発足。都市農村共生・対流総合対策交付金を活用し、国際交流、ポールウォーキング、首都圏学生と協働での体験プログラムの開発等を推進している。平成26年度から平成28年度の実績 は、交流人口が目標3,830人に対して12,610人、町民のべ 参加者が目標615人に対して2,789人となっている。その特徴は、「新しい交流機会をつくり、町内の多様な既存団体とゆるやかに連携する」手法にある。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p4

 

官民連携の「実践型地域雇用創造事業」(厚労省

都市交流施設・道の駅保田小学校の開業年である平成27年度から平成29年度に実施している事業である。地方創生の新しい拠点と地域資源を活用し、農業・漁業分野の商品開発や、温暖な気候と大消費地に近い立地を生かした交流プログラム開発を推進し、雇用創出と人材育成を目指して いる。

開業前から6次産業化や人材育成に取り組み、高齢者を含む潜在的な地域内求職者に「生涯現役での活躍」を積極的に働きかけ20歳代から70歳代までの幅広い年齢層の就労に結びつけている点にある。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p4

 

安田小学校のオリジナル商品

 

最後に

この論文を見る限り、鋸南町では

国の各省庁が示す方向性や枠組みを

バランスよく組み合わせて廃校利用の

施策を実践しているように見えます。

 

そこには合併をせず、自主自立を選択した

鋸南町の必死さや危機感を感じます。

 

次回は別の論文を参照して

より具体的な保田小学校活用の実情を

追って行きたいと思います。

民間公募方式での廃校活用の取り組み ②活用主体と内容

前回は行政の体制と取り組みの経緯を

ざっくり紹介しました。

今回はどのような主体がどのような内容で

廃校の活用を始めたのかを

ご紹介します。

 

三好市が応募に向けて、

活用に向けた基本方針を提示

◯活用目的

活用主体が地域資源である休廃校等を活用するに当たっては、雇用の創出産業振興など地域活性化に結び付く活用を目指し、三好市地域が抱える課題解決の寄与に努めることを目的とした。 

活用主体の公募

は、休廃校等を活用する創造的なアイデアの提案及び活用主体を地元以外からも広く募集することとした。

◯活用に関する基準の策定

活用主体が休廃校等を活用するに当たり順守すべき「活用に関する基準」を策定した。  基準の主な内容は、「活用主体は、提案した事業を自ら実施すること」「事業内容が雇用の創出、産業振興、福祉の増進、その他地域振興のいずれかに該当すること」「貸与を原則とすること(現状有姿で最長5年間貸与。明記はないが、支援措置として実質的に無償貸与)」「休廃校等を活用するための改修費や管理費用は、活用主体が負担すること (民間投資、民間運営)」「活用に当たり地域との合意形成を図ること」などである。

◯地域への配慮

活用主体は、休廃校等の活用に当たり、地域の理解を得るほか、 現状の投票所、避難所等として利用されている機能を引き継ぐこと、 市は、地域が活用主体となる場合は、活用基準の緩和など必要な措置を講じることができることとした。

 

上記の指針を提示した上で、

広く公募を行いました。

その成果は次の通りです。

◯ 民間活用による短期間での休廃校等の活用

休廃校等を民間事業者等に貸与し、民間事業者等が投資、運営する民間活用により、自治体の大規模な財政支出を伴わずに約2年間で活用募集校22校中9校の活用ができた。

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波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 257ページ

◯他の未活用公有財産の活用システム構築のための知見の蓄積

本事業の実施により、休廃校等以外の未活用公有財産の活用システム構築に応用できる知見を得ることができた。 

地域活性化の促進

活用事業の規模が小さいため効果の規模も小さいが、様々な業種 (食品製造、老人福祉、創作支援、宿泊、飲食、デザイン、物流関連、スポーツ関連)による廃校施設の活用により、地域雇用の創出(計26人)、産業振興、地域福祉の向上、その他地域振興など地域活性化が図られ、現時点での本事業の目的が達成された。 また、地域住民が「地域のランドマークであった学校が廃校になり寂しかったが、本事業により再び明かりが灯り、心の拠り所を取り戻せた」「多数の地域外の人が魅力を感じ、三好市を訪問することにより自信を回復した」などの感想を持つことが判明し、本事業が地域住民の心理面にも好影響を及ぼした。

 

事業の課題(詳細)

(1)活用主体の要望への対応

活用主体から三好市に対し休廃校等の活用に関する要望があり、 その対応が必要である。活用主体の主な要望は、「資金面の支援」「各種許認可手続きの支援」「契約期間後の事業継続の補償」「施設の修理」などである。 

(2)契約時における未確定事項の対応策の検討

雨漏りで商品が毀損した場合の補償など契約時に対応が未確定となっている事項があり、あらかじめ責任の所在を徹底するための対策が必要である。

(3)活用主体の交流、協力体制の構築

本事業の活用主体には様々な業種があり、活用主体間の連携により、業務連携や新ビジネスの創出等が期待されるため、 活用主体間の連携の促進、業務の発注、新ビジネスの創出等を目的とした活用主体の交流、協力体制の構築が必要である。

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 257ページ

 

廃校活用のうちのひとつ。

雑誌にも取り上げられています。

廃校との出会いについての記事も

書かれています。

 

【地消地産】食と農を切り口にした循環型地域づくり

2018年10月24日、福島県伊達市某所に、

福島大学の小山良太先生(農業経済学)

をお呼びして、

「六次化という切り口で

地域の今後を考える会」を開催。

今回はその内容を一部抜粋してお伝えします。

 

色々な話題が出ましたが、ポイントは2つ。

まず1つ目は、

「何のために六次化をするのか?」

という基本的な心構えについてです。

「地域づくりの目的は、突き詰めるとその地域の人口扶養力を高めるために行います。人口扶養力とは、その地域でどれくらい人が暮らしていけるか?という意味です。扶養力を高めるためには①地域で稼ぐ力と②地域内への循環力が必要で、そのための一つの手段として六次化や地域資源の活用があります。」

 

では具体的にどう扶養力を高めていくか?

それが二つ目の

「地消地産を用いた循環型の地域づくり」

です。地消地産とは、地域で消費するもの

その地域で作ることです。

つまり今住んでいる町以外で買っている

もののいつくかを、自分の住む町で

買うようにしていくことです。

これを少しずつ実現させていけば

地域としての収益が上がり、

その結果、地域の扶養力がアップします。

また地域内循環することで、その地域

ならではの食や暮らしの文化が醸成され、

観光客や交流人口の拡大にも繋がります。

民間公募方式での廃校活用の取り組み ①行政の体制と活動の経緯

まず三好市はどのような体制で

廃校活用の取り組みをしてきたのか

見ていきたいと思います。

 

三好市:廃校活用事業の経緯

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出所:波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 254ページ

まず最初のポイントは専従者の配置。

休廃校等の活用の取り組みは、2010年にも行われたが、専従者を配置せず関係する職員の副担当業務としたため、庁内の関係部署の意見を聞く程度に留まった。

そこで、新たに休廃校等の活用の取り組みを進めるため、2012年4月から三好市休廃校等活用事業を開始し、企画財務部の地域振興課を担当課とし専従者を配置するとともに、市議会に市有財産活用調査特別委員会を設置した

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 254ページ

成功要因の一つも挙げられていましたね。

これは2010年の経験が効いてます。

 

次に行ったのは現状調査と、

他県の廃校活用状況の把握。

他県の廃校活用の状況を把握するため、2012年4月~11月に廃校活用の事例(中国、四国、九州)を15校視察し、(一財)都市農山漁村交流活性化機構の研修セミナー(中国、四国、九州)に 3 回参加した。その結果、他県の事例には、地元自治体の負担が無いなど有利な条件で補助金を受けて休廃校等をグリーンツーリズム系の施設に改修し、それを指定管理者が運営する事例が多いが、その投資額(補助金)に対する効果(売上高など)が低い事例が多いこと、また、補助金によりコミュニティセンター等の社会教育施設に改修した事例も多いが、利用者が1日数名と少なく、費用対効果が低い事例が多いことも分かった。そのため、自治体が改修し指定管理者が運営する方法ではなく活用主体に休廃校等を貸与し、活用主体が改修、運営する方法を検討することとした。

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 254-255ページ

専従者を配置したこともあってか、

他の自治体に比べて視察・研修が多く、

しっかり分析もしています。

 

また自治体の指定管理の運営ではなく、

活用主体に貸与し、活用主体が改修、運営する

方法を検討している様子からは、

三好市の将来のことを考え、そのためには

どのように休廃校の活用をするべきか、

という姿勢が見えます。

 

視察・研修と並行して、

地域意見の聴取も行っています。

地域意見交換会での主な意見として、

「地域の休廃校等以外に投票所や避難場所等に利用できる施設がないので、今後も投票所や避難場所等としての利用を維持してほしい」

「施設がもったいないので活用してほしい」

「休廃校等の有効活用を望むが、地域だけでは活用案を出すには限界があるため、地域外から活用アイデアを広く公募し外部の活用に期待する」

「活用案がまとまった際には地元説明会を行うこと」

「休校について学校以外の用途に活用できるよう早期に廃校にしてほしい」

などがあった。

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 255ページ

地域によっては、民間に貸与することを

嫌うところもあります。 

 

 

推進体制の構築

休廃校等の活用状況を見ると庁内の複数の部署が関係しており、 担当課だけでは休廃校等の活用を検討することは困難であると判断されたため、2012年8月1日に庁内を横断する「三好市休廃校等活用推進委員会と下部組織として幹事会を設置した。

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 255ページ

 

活用アイデアの募集

2012年8月21日より三好市外からの休廃校等の活用に関するアイデアの募集を開始した。

その結果、太陽光発電など自然エネルギー系の活用など44件のアイデアの応募があった。しかし、イデアだけで事業計画がなく、休廃校等の貸与の判断ができず、最終的に休廃校等の活用には結び付かなかった

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 255ページ

 

地域との合意形成・募集活動・事業サポートの実施

2013~2014年度において活用事業計画に関する地域説明会を三好市内9か所、9校で実施した。また、同期間において活用誘致説明会を東京で5回、大阪で4回(参加計110社)、休廃校等視察ツアーの受け入れを15回(参加計51社)実施した。また、進出を検討中の事業者や進出後の事業者に対する相談、フォローを随時行った。

波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 255ページ

 

本事業のスキーム

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出所:波出石誠『日本建築学会技術報告書』第23巻 第53号 255ページ

 

経緯の(10)まで、ざっくりと進めてきました。

次回は、活用主体が決まるまでを

紹介したいきたいと思います。