服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

都市農村交流を目指した廃校利用(千葉県鋸南町)

「都市農村交流」というキーワードは、

中山間地域で地域づくりの話し合いの中で

よく出てくるテーマです。

 

廃校利用においても「都市農村交流」を

テーマとした施設は多く見られます。

 

今回はその中でもモデルケースとなりうる、

千葉県鋸南町 都市交流施設・道の駅安田小学校を

東京農業大学の豊島まゆみさん(博士課程)の

「廃校を活用した地域活性化に関する研究」

論文を参照して取り上げたいと思います。

 

千葉県鋸南町

20174月現在の人口は8,308人、高齢化率は44.0%。

町の主産業は農業・水産業と観光業である。

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出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p2

 

地域活性化における多様な国の枠組み

国は多様な施策を打ち出している。

内閣府は「小さな拠点づくりと地域運営組織の組成」による地域の再生

農林水産省は「都市と農村の交流の推進」

国土交通省は「道の駅」を経済の好循環を地方に行き渡らせる成長戦略の強力なツールと位置づけ

厚生労働省は雇用情勢の厳しい地域における「地域関係者の創意工夫を活かした雇用創出の取組み」を奨励するなどである。

地域はこれら施策を統合的に実践し、活性化に結び付ける必要がある。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p2

 

鋸南町の検討・推進プロセス

鋸南町の場合は官・民・官民連携とそれぞれが役割分担を

しながら拠点整備と組織の進化・発展を推進している。

 

官主導の「鋸南町都市交流施設整備事業」(農水省

平成24年度から平成28年度まで、農林水産省農山漁村活性化プロジェクト交付金を活用し、官主導で推進された基幹事業で、事業内容は、基本調査、実施計画、出荷組合立上げ、運営・テナント事業者募集、基本設計、実施設計、施工、加工所整備、PR事業と多岐にわたり、ハード整備と直結するソフト整備の事業を統合的に実施 

鋸南町の特徴①「開かれた施設を目指す」

文部科学省の廃校施設等活用状況実態調査[1]によれば、平成2851日現在、施設が現存する廃校5,943校のうち4,198校がさまざまな用途に活用されているが、体験交流施設等「地域に開かれた」利活用事例は239施設(5.7%) にとどまっており、廃校を「開かれた」施設として転用することの難しさが推察される。

鋸南町の特徴②「外部専門家の積極活用」

鋸南町の特徴③「担当者の固定化」

廃校活用を考えつづけ、積極的に専門知識を外部に求める姿勢を維持し、人材を探し続けることで、人が人を呼ぶ好循環を生み出すことができたという。また、行政側に、民間企業での勤務経験がある職員を事業期間を通じて配置しており、外部人材と行政の間や、施策間の連携をとる役割を一貫して果たしている。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p3

 

民主導の「都市農村共生・対流総合対策事業特徴」(農水省

平成264月、町内有志による地域活性化団体「ようこそ鋸南プロジェクト」が発足。都市農村共生・対流総合対策交付金を活用し、国際交流、ポールウォーキング、首都圏学生と協働での体験プログラムの開発等を推進している。平成26年度から平成28年度の実績 は、交流人口が目標3,830人に対して12,610人、町民のべ 参加者が目標615人に対して2,789人となっている。その特徴は、「新しい交流機会をつくり、町内の多様な既存団体とゆるやかに連携する」手法にある。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p4

 

官民連携の「実践型地域雇用創造事業」(厚労省

都市交流施設・道の駅保田小学校の開業年である平成27年度から平成29年度に実施している事業である。地方創生の新しい拠点と地域資源を活用し、農業・漁業分野の商品開発や、温暖な気候と大消費地に近い立地を生かした交流プログラム開発を推進し、雇用創出と人材育成を目指して いる。

開業前から6次産業化や人材育成に取り組み、高齢者を含む潜在的な地域内求職者に「生涯現役での活躍」を積極的に働きかけ20歳代から70歳代までの幅広い年齢層の就労に結びつけている点にある。

出所:豊島まゆみ 『廃校を活用した地域活性化に関する研究 –千葉県鋸南町「都市交流施設・道の駅保田小学校」事例』p4

 

安田小学校のオリジナル商品

 

最後に

この論文を見る限り、鋸南町では

国の各省庁が示す方向性や枠組みを

バランスよく組み合わせて廃校利用の

施策を実践しているように見えます。

 

そこには合併をせず、自主自立を選択した

鋸南町の必死さや危機感を感じます。

 

次回は別の論文を参照して

より具体的な保田小学校活用の実情を

追って行きたいと思います。