服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

都市農村交流を目指した廃校利用(千葉県鋸南町)②

今回は、千葉大学安田隆博さん・小川真実さんの

都市交流施設・

道の駅『保田小学校』

―都市と農山漁村をつなぐ,新たな交流拠点―

千葉大学  経済研究  第32巻 第2号  2017年9月)

の論説を参照して、さらに深く見て行きたいと思います。

 

保田小プロジェクトの「大きな指針」

具体化に向けて大きな指針となったのが,白石治和町長が示した学校の雰囲気を残し,町民が参加するステージを作るという方向性。

事業をやりたい方には,事業の場を,文化活動に取り組む人には発表の場を,小さなお子さんをお持ちの方には交流の場をというように,あらゆるタイプの町民の方に社会参加と交流の機会を提供する

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 58-59ページ

 

3つの特色

①住民発の取り組み

鋸南町の事例では,公共施設の再編統廃合という地域活力の喪失を引き起こす取り組みを,住民発のアイデアで雇用や仕事を生み出すための地域コミュニティの拠点へと生まれ変わらせたことに第一の特色がある。道の駅「保田小学校」が「新たな人々の学び舎」になるには,様々なソフトコンテンツの開発や充実が求められる。

今回のプロジェクトは,まずは拠点づくりというハードを先行させて町民の気運を盛り上げつつ,後追いでソフトを展開するという,ある意味まれなケースであったかもしれない。よって,ソフト事業はまだまだこれから,というのが実情である。今後は,かつて学校であったという背景を利点に,学びという視点から多彩な体験型メニューを生み出し,町内への回遊を進めていくことが,交流人口を加速させるための有効策の一つと考えている。

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 57ページ

開発されたソフトコンテンツの一つに

「みんなの家庭科室」があります。

これは新たな特産品開発を奨励するため

に作られた施設です。

またジビエや狩猟に関する体験ツアーの

企画も実施しています。

 

②最も苦慮した「設計」

外部の人的資源との連携が第二の特色といえる。廃校施設を地域振興の起爆剤となるコミュニティ拠点へと生まれ変わらせることに,民間活力を導入するために,設計事業者の一般公募を実施した。

行政では経験のない商業部分の計画・設計・運営をどうするか。(中断)商業部分を担う設計者は本プロジェクトの肝になる存在であり,いかにして商業部分の知識とアイディアを持つ最良な設計者を選定するかが最も苦慮した部分であった。

良い設計者を選ぶには,良い選考過程を整えることが重要である。良い選考課程とは,つまり「オープン」「公平」「公正」なことであり,そうした点で評価の高い著名な建築家の方々を審査員に迎え,平成25年10月に設計事業者を一般公募した。

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 52ページ

1次審査には37社の応募があり、

2次審査に進んだ6社には鋸南町の公民館で

公開プレゼンをしてもらいました。

そして審査の結果、最良の設計者と出会い、

またそこから「大学との連携」という

当初の計画では思いもしなかった効果を

生み出しました。

設計にも関わってくれた5大学の学生たちが,ワークショップの実施などを通じて町全体の活性化に参画する機会も増え,まちづくりの仲間として関係が深まっている。率先して専門知識を外部に求める姿勢があったからこそ,良質な支援者が集まる好循環が生まれてきた

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 57ページ

 

③道の駅の枠組みを活用

国家戦略の支援も第三の特色といえる。道の駅は国土交通省のヒット商品であり,1,100を超える施設が日本全国に展開している。また世界銀行の支援もあり,東南アジアでの社会実験が実施されることとなった。いまや,全国に点在する道の駅ネットワークが一つのブランになっている。

安田隆博・小川真実「千葉大学  経済研究」  第32巻 第2号  2017年9月 60ページ

 

最後に

初回は3つの主体(官・民・官民連携)

ごとにどのような枠組みの中で

推進・検討をしてきたのか、

2回目では保田小学校の3つの特徴を

切り口に、鋸南町ならではの廃校活用の

在り方をみてきました。

 

その中でもハードを整備してから

ソフトを充実させるという考え方

とても面白いですね。

この考え方は、下手をすると事業の失敗を

招きかねないです。一昔前の行政では

この考え方が当たり前でした。

要するにハコモノ行政のことです。

 

鋸南町でもハード→ソフトというプロセスは、

まさにハコモノ行政と同じですが、違うのは、

「町民が参加できるステージを作る」という

ビジョンがある事です。

 

さらにそのビジョンの実現には

ステージ(場・環境)が必要であり、

具体的なソフト開発よりも優先度が

高いです。

 

明確なビジョンがある事と、

ビジョンの肝が場を作る事という理由で、

ハード→ソフトというプロセスが

成り立っているのだと思います。