服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

地場産業のアップデート事例6選

今回は、昭和女子大学の熊坂敏彦さん論文、

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「循環型地場産業」の創造 

―新時代創生・地域創生に活きる「地場産業」のDNA―

  ( 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要)

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を参照して、地場産業がどのように

アップデートを試みているのかを

紹介していきたいと思います。

 

地場産業とは…

自然環境の優位性や原料資源の存在、豊富な労働力や特殊な技術、さらに有力な商人の存在を条件として産地を形成している中小企業。

特性は、「①特定の地域に起こった時期が古く、伝統のある産地であること、②特定の地域に同一業種の中小零細企業が地域的企業集団を形成して集中立地していること、③多くの地場産業生産、販売構造がいわゆる社会的分業体制を特徴としていること、④他の地域ではあまり産出しない、その地域独自の「特産品」を生産していること、⑤地域産業とは違って市場を広く全国や海外に求めて製品を販売していること」があげられる。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  2ページ

 

現状と課題

地場産業」は、わが国の産業構造の変化の中で構造的な不況に陥り、企業数、生産額、輸出額などを激減させ、「空洞化」を余儀なくされた。

1985年から2005年の20年間に、産地内企業数は約12万社から約4万社へ3分の1に縮小し、「産地」の生産額は半減輸出額は5分の1に激減した。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  2ページ

 

こうした状況の中で、企業や産地は、

企業革新や産業革新を行ってきました。

この論文では次の地域を取り上げています。

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出所:熊坂 敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要 3ページ

カテゴリーは「ものづくり」だけでなく、

「まちづくり」と「ひとづくり」にまで

及びます。

その中で革新の内容は次の5つです。

①事業転換

②連携

③デザイン・ブランド

④コミュニティ

⑤人材誘致・育成

さらにこの5つのポイントには「革新的DNA」

つまり地場産業ならではのアップデートの核

のようなものがあると熊坂氏はまとめています。

第1は「事業転換力」である。「地場産業の歴史は、事業転換の歴史である」と言われる。「地場産業」には、経済環境の変化に適応していく「小回性」や「弾力性」があるとみられ、市場ニーズに即した「多品種少量生産」が求められるこれからの時代に相応しい特性を有している。 

第2は「連携力」(「ネットワーク力」)である。「地場産業」は中小零細企業が主体であるため単独での取組みには限界があり、「産地革新」成功事例の多くは、「ネットワーク」や「コラボレーション」等、様々なタイプの「連携」によるものである。そのような「連携」は、「地域イノベーション」を誘発するとともに、地域内の経済循環を高め、内発的発展を促す契機となる。 

第3は「デザイン力」である。もともと「地場産業」は、職人の手仕事や伝統的な技、産地作家の作品・芸術品に支えられており、そこで生み出された製品は「デザイン性」や「文化性」に優れ、「地域文化」や「日本文化」を代表するものも多い。そして、それらは「ブランド力」を伴って、内外の新たな市場に浸透していくことができる。 

第4は「地域コミュニティ創造力」である。「地場産業」は、大企業とは違って「磁場」に吸引されるように「地域」や「地場」と一体化しており、地域社会やコミュニティの構成員の一員としての面を持つ。そして、「まつり」や「地域イベント」においては推進リーダーやスポンサーとして機能し、地域資源として産業観光にも貢献する等、地域コミュニティ再生・創造力を有している。 

第5は「人材育成力」である。「地場産業」は、大企業と違って、「等身大の技術」「人間の顔を持った技術」で成り立っており、地域の若者に対して、人間的な仕事、創造的な仕事、喜びを与える仕事を提供する。そして「地場産業」が有する「人にとって優しい」という「人間力」は、有能な人材を育成することができる。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  3-4ページ

 

「循環型」地場産業という提案

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出所:熊坂 敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要 4ページ

循環型地場産業とは…

「脱成長時代」「定常化社会」「持続可能な社会」において、自然(物質・エネルギー)循環生産循環金融循環が一体となった産業循環、さらに、「循環型地域・産業システム」の創生に貢献し、かつその構成要素となる「新しい地域の産業」である

図に示したように、従来の「地場産業」(製造業)を核にして、地域農業(農林水産業)、地域エネルギー産業、地域商業、地域観光・サービス・地域金融業等、地域内の他の「地域産業」と「連携」し、「ものづくり」だけではなく「まちづくり」や「ひとづくり」とも係りながら「地域内経済循環」を創生する「新しい地域の産業」である。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  4ページ

 

循環型地場産業の特徴

従来の「地場産業」の特性とは大きく異なる。

①歴史の古さや伝統性を超え、未来創造的なもの

産地形成には拘らない

③社会的分業には拘らず、様々な「連携」の下で水平的・垂直的な結合へ発展する

④地域の特産品(もの)を産出するだけではなく、地域内のサービス・情報・ノウハウ等のソフトも提供する

市場は、地域内、国内、世界と広い

⑥その主体は、地域の中小零細企業(製造業)だけではなく、個人、生業、協同組合、NPO/NGO等も含む等である。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  4ページ

 

国や自治体の役割

「循環型地場産業」が「持続可能な循環型社会」や「循環型地域・産業システム」構築の中心となって機能するうえで基礎自治体としての市町村の枠を超えた「広域連携」や「都市農村交流」、「海外とのネットワーク形成」等、「域外交流」推進による「外延的発展」も重要になる。そこをサポートすることが、国や地方自治体の新時代の「地域政策」「産業政策」の要となるであろう。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  4ページ

 

循環型地場産業に期待できる

地域再生と地方創生」

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①自然・環境の再生

②地域イノベーション

③地域コミュニティ再生

④地域文化創造 

 

次回は熊坂氏が紹介する地場産業

事例を紹介しながら、循環型地場産業

可能性に迫っていきたいと思います。