服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

【書評】ビレッジプライド ①島根県邑南町で何が起こっているか。

今回は前回に引き続き

島根県の話です。

 

島根県邑南町の公務員、

寺本英仁さんが書いた

「ビレッジプライド」

を参照して、より具体的な

島根県の地域づくりの現状を

紹介していきたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/ビレッジプライド-「0円起業」の町をつくった公務員の物語-寺本-英仁/dp/4893089099/ref=cm_cr_arp_d_product_top?ie=UTF8


この本は、

スーパー公務員・寺本英仁さんによる

「食」と「農」をテーマとした、

地域づくりのサクセスストーリーです。

テーマに沿って、事業開発・人材育成

情報発信・ブランド作り・地産地消モデル

などの他の地域でも実践できそうな

エッセンスを学ぶことができます。

 

初回は邑南町で何が起こっているのか、

全体像をざっくりと紹介していきます。

 

【邑南町の現状】

邑南町は2004年の平成の大合併

によって生まれた町です。

合併時の人口は約1万3000人で、

10年ちょっとで人口は2000人減少。

高齢化率は43%を超えています。

 

しかしここ最近の邑南町では、

子どもの数が増えています

邑南町では人口減少の右肩下がりが緩やかになり、子どもが増えているからだ。特殊合計出生率は2.46(2015年。5年間の平均でも2を超えている)、3年連続社会増(転入と転出の差によって生じる人口の増加のこと)という実績になって表れている。

数字で見るとUターン、Iターンしてきた人は、2015年度でちょうど100名。島根県内の町村では突出して多い。

寺本英仁『ビレッジプライド』15ページ

 

若者の移住の理由

「耕すシェフ制度」

邑南町のレストランで研修

邑南町に若者たちが全国からやってくるようになった原動力が、2011年10月からスタートした「耕すシェフ」という農業と料理人の育成制度だ。

これは「食」「農」に関心のある都市部に住んでいる人に、将来、その道のプロになるための支援をし、邑南町での起業を目指してもらうもの。お金は取らない。逆に、最長3年間の研修期間中は、月額16万7000円の研修費が出る

ただ「耕すシェフ」の制度だけでは、研修後の起業や定住になかなか結びつかず、さまざまな仕組みが必要だった。

寺本英仁『ビレッジプライド』17-18ページ

 

食のプロフェッショナルコース

「食の学校」の開校

起業の定着化を目指す

2014年に開設したのが「食の学校」である。現場の研修だけでは、3年間で開業に必要なプロの技術を身につけるのは難しかったためだ。そこで料理人の世界にありがちな徒弟制を廃して、高度な調理技術を実践的に学ぶプロフェッショナルコースを準備した。目玉は、日本各地からトップクラスのシェフを招聘した特別講座である。

寺本英仁『ビレッジプライド』18ページ

 

地域循環で仕事をつくる

邑南町の住民(1万人)が、町内で1年間に1万円、前年より多くお金を使ったとすると、1億円のお金が域外に出なくなる。仮に、一人当たりの年収を300万円とすると、1億÷300万で33人の仕事が生まれる計算になる。

つまり、地域内で経済が循環することになる。「田舎に仕事がない」と言われるけれども、みんなが少しずつ地元でお金を使う機会が増えれば、仕事も増えるのだ。結果として、子育て世代が移住してくる可能性も高くなる。

ちょっと役人ぽい言い方をすると「地域型循環経済の確立」ということだが、要するに「地域の人たちが地元の産品や店を愛して、地元でお金を使ってくれると、想像以上にみんなが幸せになれる」のである。

寺本英仁『ビレッジプライド』14ページ

この考え方は、田園回帰1%戦略ですね。

邑南町では実践して試行錯誤を続けながら、

成果を上げています。

 

「食」で住民の誇りを取り戻す

里山イタリアンAJIKURA

2011年5月に町主導でオープンした地産地消の高級レストラン「素材香房ajikura」は、遠方からやって来る人も多い人気レストランになり、また料理人の人材育成をする場としても評判になった。

邑南町には、一流レストランに必要な食材がたくさんある。豊かな自然と、その環境を活かそうと研鑽を続けてきた生産者によって育まれた「宝物」のような食材だ。

「素材香房ajikura」は、そんな食材を一流のシェフが調理し、歴史ある酒蔵を移築・改装した店舗で提供して、立地がよいとはとてもいえないこの山間部に、県外からも多くの人を呼び寄せたのだ。「軌道に乗ったところでプロに任せる」とう方針の下、この店は2015年に民営化して、今は「里山イタリアンAJIKURA」となっている。ここ邑南町の本店ほか、広島三越をはじめ広島市内で3店舗を運営するまでになり、中四国地方のイタリアン業界では確固たる地位を築いている。

遠方からわざわざやってきて、地元産の野菜や肉の美味しさに驚愕する人たちが、この地域に住んでいる人に、誇りが回復するきっかけを与えてくれたのだ。これは「ajikura」の大きな功績だと思っている。

ただ高級レストランだけに、地元の人が気軽には立ち寄りにくかったのも事実。僕はみんなにもっともっと地元のことを好きになってもらいたい、地元の誇りをもって暮らして欲しいーずっとそう思っていたから、町の人がリピーターになってくれる店を作りたかった。それが実現したのが「香夢里」だった。

寺本英仁『ビレッジプライド』10-13ページ

 

里山のからだにやさしい

発酵レストラン  香夢里

プロデュースを務めたのは、NHKきょうの料理」「あさイチ」などの料理番組やたくさんの料理本で発酵食のレシピを紹介している料理家の井澤由美子さんだ。そう、彼女の代名詞とも言える「発酵」がこのレストランのキーワードになっている。

そんな井澤さん考案の「香夢里」の人気メニューが「46品目の発酵かご盛りランチ」(1300円)である。46もの食材が使われた郷土料理や創作料理が、邑南町の竹でつくった籠の中に並んでいる。「日々、幅広くいろんな発酵食と野菜を食べると、腸が活性化して元気になる」のだそうだ。

僕がいちばん嬉しかったのは、町の住民たちが何度もリピートしてくれることだ。

寺本英仁『ビレッジプライド』8-9ページ

邑南町にはajikuraと香夢里以外にも

蕎麦屋、カフェ、パン屋など

次々と開業しています。

 

初回はざっくりと

邑南町では何が起こっているのか、

を紹介してきました。

 

行政主導で食と農の事業を展開し、

町を再生させるに至った邑南町ですが、

ポイントはどこにあるのでしょうか。

 

邑南町では他の地域では考えられない、

常識を逸した取り組みも行なっています。

そこを紐解けば、地域づくりにおける

本質的で普遍的な考え方が見えてきます。

 

次回からは各項目をもう少し詳しく

紹介していきたいと思います。