服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

【書評】ビレッジプライド ④最強の地産地消レストラン

前回は外貨を獲得するため、

また認知度を向上させるために

京進出挑戦の話をしました。

 

挑戦期間は約3年間。

東京という大消費地に圧倒され、

早々にPR事業に切り替えるも成果は

一過性のもので、邑南長の経済を

活性化させるまで至りませんでした。

 

悩む寺本さんは町長のアドバイスを受け、

山形県鶴岡市の「アル・ケッチャーノ」

というレストランに出会い、

地産地消レストランに方向転換します。

邑南町の食材は素晴らしいと十分に理解していながら、僕は今まで「特産品を都会で売る」という固定観念にずっととらわれていた。良い食材は、町に来て食べてもらったほうがよいのではないか!そう閃いたのだ。

寺本英仁『ビレッジプライド』109ページ

 

欧州のミシュラン選考基準

今でこそ、ミラノやパリなど、ヨーロッパを代表する都市にもあるけれども、発端は地方の片田舎のレストランに与えられる称号だったという。

とくにイタリア、フランス、スペインといった多くのグルメが旅する国では、いい食材がある地方がリスペクトされている。料理人はその片田舎で地元の食材を活用して、素晴らしい料理を提供している。

寺本英仁『ビレッジプライド』110ページ

イタリアについてもっと調べてみると、イタリアには500-1000人程度の小さな村が多くあり、日常の衣食住を徹底して地元でつくっており、その生産者たちが定住している。そのこと自体が地域独自の文化となって、多くの観光客を集めている  

寺本英仁『ビレッジプライド』111ページ

 

地域循環で地域を豊かに

東京中心の経済システムからの脱却

僕が本当にやりたいのは、都会から金をぶん取ることではなかった。

地域でお金が循環していき、その美しいコミュニティに憧れて外から人が来て、さらに経済が拡大する仕組みをつくりたいのだ!

僕が実現しなくてはいけないのは、「経済が循環して拡大していく地域づくり」であり「そのための仕組みづくり」だったのだ。

寺本英仁『ビレッジプライド』112ページ

 

A級グルメ構想

「A級グルメ」とは、邑南町で生産される良質な農林産物を素材とする「ここでしか味わえない食や体験」と定義した。イタリアの農村の暮らしをかなり意識していた。

「食」に関する産業がさかんになれば雇用機会は拡大する。「食」から「職」を生み出す起業家を育成することや、「食」を求めて邑南町を訪れる観光客を増やすことなど、さまざまな取り組みを掲げた。

寺本英仁『ビレッジプライド』115ページ

この構想をまとまめるために

邑南町の事業者に集まってもらい、

「観光」「定住」「起業」のテーマで

議論を重ね、さらに町の課題や強み、

地域の特性についても話し合いました。

 

こうして、A級グルメ構想のもと、

邑南町役場がつくる地産地消レストラン

を作っていくことになります。

そして第一回でも紹介した耕すシェフ制度や

食の学校を設立することで、食から職へ、

また食をテーマとしたブランディング

を着実に進めています。

 

東京経済から地域循環への転換

今回の内容から得られることは、

「ターゲットをどこに設定するか」ということ。

つまりどこに軸足を置いて、どっちの方向を向いて

地域づくりをしていくか、ということです。

 

当初の寺本さんは東京中心の経済システムに

乗っかる戦略を立てていました。

実は現在の日本において、地域循環派よりも

地域外の経済システムに乗る戦略の方が多いです。

その理由はいつくかあります。

地域内で循環させるにしても、妬みなどの感情

が生まれてうまくいかない。よって地域内では

商売が成り立たない、と主張しています。

 

しかし、かと言って東京中心の経済システムに

軸足をおいてしまうとコントロールができなく

なってしまいます。販路が増えて売上は上がる

かもしれませんが、その地域ならではの豊かさ

が失われてしまうかもしれません。

 

現代は目まぐるしく時代が変わっていくので、

どちらも間違っていないし、どちらも可能性

があると思います。その中で島根県邑南町は

有力な地域循環推進派だと思いますので、

これからも追っていきたいと思います。