服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

島根県の田園回帰1%戦略とは?②

今回はカネやモノの流れなどの

地域内の循環の考え方に

触れていきたいと思います。

 

【お金の流れの現状】

まず重要なことは家計調査です。それなくしていろいろ組み立てても暮らしのようすがわからないし、一体どれだけお金が必要かもわかりません。

島根の山間部でも、今、年間の食費のナンバーワンは、何と外食で7万5,000円です。それからアルコール飲料4万円。全然、地域経済に貢献しないパターンになっています。

さらに、今や米よりもパンですが、パンは1世帯年間3万円ぐらい買っています。それが今、日本全国でもいろいろサンプル調査していますが、一人1万円買っています。皆さんの地元の人口に1万円掛けてください。けっこうな額になります。それだけ消費しているけれども、外からパンを買っていたら、これは所得も増えないし、定住も増えません。

それから、住居光熱費が11万円です。暖房を灯油とかでやると、どんどん外に流れていきます。むしろ、同時にそうやって考えたら、ここでこれだけお金がつくれるというリストにもなる。

さらに嘆かわしいのは教育費です。まだ小、中、 高校も地元にあるうちはいいのですが、下宿になったら、もう100万円超えます。教育費がなかったら、 かなり楽です。家計調査からわかるのですが、300万円ぐらいで暮らせなくはないのです。そういうモデルはつくり得る、住居費も安いですから。  

何を申し上げたいかというと、とにかく地元で食料やら燃料、昔は自給していたものをつくってない。 田舎でも金額ベースで地元産は5~6%。95%は外から買う。燃料たるや、ほぼ0です。どれぐらい取り戻せるかというと、食料、燃料だけでも仮に半分 だけでも地産地消にしたら、1,600人の村で2億円いきます。外の物を買っているからお金が流れ出ています。

どういう感じで取り戻すかというと、全国でも有名になりつつあるキヌヤというスーパーがあります。 これによって、毎年1%取り戻しています。誰でも15%の手数料払ったらここで地元産のものが売れます。手をかえ品をかえ、いろんな旬を変えて毎日出荷しています。こういう出荷農家の中から、今、 1,000万円プレーヤーが出ています。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー5ページ

キヌヤスーパー

【類似事例】

アルコールの地消地産

福島県二本松市東和

自分たちで飲む酒は自分たちで作ろう

ということでビールとワインを

作っています。

他にも東和では有機農業、農家レストラン

農家民泊など地域資源を生かした

コンテンツが満載です。

移住者に対するサポートも充実していて、

新規就農者が多い地区です。

 

【循環を生む体制】

毎年1世帯か2世帯入ればいいのです。農業をやるにしても最初から農業だけではやっていけませんから、冬場は林業、あるいはさっきの薪のエネル ギーとか、小さな拠点、共通の土木、こういうのをまとめて仕事をつくってあげるような仕組みが必要なわけです。

クローズアップ現代」にも紹介された出羽地区ですが、ここは12集落で構成され1,000人弱のところです。12集落ばらばらではなくて、自治会として一緒にやりましょう。そして農業も一緒にやりましょう、 とどんどん横つなぎが始まっています。この地域では合同会社出羽ができました。ここでは、例えば空き家活用もビジネスとして引き受けます。最近では、 薪ストーブまでつくっています。そういうので全部仕事を足していくと、2人ぐらい雇えるとなって、この4月から実際に農業大学を卒業した2人が定住しています。自治組織をつくるだけではなくて、今度は事業組織を車の両輪でつくっていくことが重要です。

日本の田舎の魅力は、アメリカとかオーストラリアみたいに特定の物が大量にとれることではなく、 ちょっとずついろんな物がとれることです。農家でも50、60種の野菜はとれる。ちょっとずついろんな物がとれる世界は、高度経済成長まではそれぞれの地域で息づいていたのですが、全部切り捨てられました。 でもそこには本当は豊かさがあり、自然の多様性にも応じた、実は潤いがあり、魅力があると思います。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー6ページ

【熱心な思いに反応する】

こういう人口取り戻しは、個々の集落に1組ずつ入っていくことですね。ですから、焦らなくてもいいのです。一方で、 誰でもいいから来て下さい、ではないはずです。私たちは、こういう暮らし、こういうふうに頑張っている、だから一緒に暮らそう。ぜひ、本当は自分の集落を自分で案内して入ってもらうことをやってほしい。 それから、本気でそこへ入りたい人はだいたい、通いますから。鉄則は、「選ばない地域は、選ばれない」です。これはうちの集落の祭りで、娘もいます。 祭りとか、草刈りとか手間かかることばっかりですが、 よく考えてみたら、手間をかけたものしか伝わっていません。記憶にも残らない。

あのおじいちゃんがいて橋ができたとか、あのおばあちゃんはいつも丹念にこういうことされていたとか、そういう頑張ってきた姿を記憶してつなげていくとこだと思いますね。地元をつくり直す中で、ここで一緒に暮らそうと言っていきたいなと思います。

人口というのは人生の数ですから、そういった記憶が紡がれる地域、すなわち地元を取り戻すということが非常に重要だと思います。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー7ページ

 

島根県の事例を見てみると、

住民の行政依存度は低く、

自分たちのことは自分たちで

決めて動いていこう、という

意識が見えますね。

 

地域の主体性が確立されているのは、

中山間地域研究センターを中心に

中越の回で話したような「たし算のサポート」

を地道に行ってきたんだろうと思います。

 

あとはいかに国のお金を使わなくても、

持続可能な地域を作っていくかだと思います。

ヤフーCSOの安宅さんによると、

海士町は美しい地域で移住者が増えていますが、

暮らしを維持するために住民一人当たり、

約250万円のベーシックインカム級の

公費が使われているとのこと。

このうちの7割はインフラを維持する

ためのコストです。

このコストをいかに削減していくか...

 

島根県を見てみると、

ローカルの課題とそれに対して

やるべきことが明確に見えてきます。

財政状況を見ると暗い気持ちに

なりますが、ポジティブにやるべき

ことをやっていくしかないですね。