服部シライトのローカルな覚書

福島県の大学と自治体に所属しながら、 地域が抱えている課題に取り組んでいます。国内外の論文や著書をベースにした知識とノウハウの紹介と、実際に地域で実践しているプロジェクトについて発信します。

【書評】ビレッジプライド ①島根県邑南町で何が起こっているか。

今回は前回に引き続き

島根県の話です。

 

島根県邑南町の公務員、

寺本英仁さんが書いた

「ビレッジプライド」

を参照して、より具体的な

島根県の地域づくりの現状を

紹介していきたいと思います。

https://www.amazon.co.jp/ビレッジプライド-「0円起業」の町をつくった公務員の物語-寺本-英仁/dp/4893089099/ref=cm_cr_arp_d_product_top?ie=UTF8


この本は、

スーパー公務員・寺本英仁さんによる

「食」と「農」をテーマとした、

地域づくりのサクセスストーリーです。

テーマに沿って、事業開発・人材育成

情報発信・ブランド作り・地産地消モデル

などの他の地域でも実践できそうな

エッセンスを学ぶことができます。

 

初回は邑南町で何が起こっているのか、

全体像をざっくりと紹介していきます。

 

【邑南町の現状】

邑南町は2004年の平成の大合併

によって生まれた町です。

合併時の人口は約1万3000人で、

10年ちょっとで人口は2000人減少。

高齢化率は43%を超えています。

 

しかしここ最近の邑南町では、

子どもの数が増えています

邑南町では人口減少の右肩下がりが緩やかになり、子どもが増えているからだ。特殊合計出生率は2.46(2015年。5年間の平均でも2を超えている)、3年連続社会増(転入と転出の差によって生じる人口の増加のこと)という実績になって表れている。

数字で見るとUターン、Iターンしてきた人は、2015年度でちょうど100名。島根県内の町村では突出して多い。

寺本英仁『ビレッジプライド』15ページ

 

若者の移住の理由

「耕すシェフ制度」

邑南町のレストランで研修

邑南町に若者たちが全国からやってくるようになった原動力が、2011年10月からスタートした「耕すシェフ」という農業と料理人の育成制度だ。

これは「食」「農」に関心のある都市部に住んでいる人に、将来、その道のプロになるための支援をし、邑南町での起業を目指してもらうもの。お金は取らない。逆に、最長3年間の研修期間中は、月額16万7000円の研修費が出る

ただ「耕すシェフ」の制度だけでは、研修後の起業や定住になかなか結びつかず、さまざまな仕組みが必要だった。

寺本英仁『ビレッジプライド』17-18ページ

 

食のプロフェッショナルコース

「食の学校」の開校

起業の定着化を目指す

2014年に開設したのが「食の学校」である。現場の研修だけでは、3年間で開業に必要なプロの技術を身につけるのは難しかったためだ。そこで料理人の世界にありがちな徒弟制を廃して、高度な調理技術を実践的に学ぶプロフェッショナルコースを準備した。目玉は、日本各地からトップクラスのシェフを招聘した特別講座である。

寺本英仁『ビレッジプライド』18ページ

 

地域循環で仕事をつくる

邑南町の住民(1万人)が、町内で1年間に1万円、前年より多くお金を使ったとすると、1億円のお金が域外に出なくなる。仮に、一人当たりの年収を300万円とすると、1億÷300万で33人の仕事が生まれる計算になる。

つまり、地域内で経済が循環することになる。「田舎に仕事がない」と言われるけれども、みんなが少しずつ地元でお金を使う機会が増えれば、仕事も増えるのだ。結果として、子育て世代が移住してくる可能性も高くなる。

ちょっと役人ぽい言い方をすると「地域型循環経済の確立」ということだが、要するに「地域の人たちが地元の産品や店を愛して、地元でお金を使ってくれると、想像以上にみんなが幸せになれる」のである。

寺本英仁『ビレッジプライド』14ページ

この考え方は、田園回帰1%戦略ですね。

邑南町では実践して試行錯誤を続けながら、

成果を上げています。

 

「食」で住民の誇りを取り戻す

里山イタリアンAJIKURA

2011年5月に町主導でオープンした地産地消の高級レストラン「素材香房ajikura」は、遠方からやって来る人も多い人気レストランになり、また料理人の人材育成をする場としても評判になった。

邑南町には、一流レストランに必要な食材がたくさんある。豊かな自然と、その環境を活かそうと研鑽を続けてきた生産者によって育まれた「宝物」のような食材だ。

「素材香房ajikura」は、そんな食材を一流のシェフが調理し、歴史ある酒蔵を移築・改装した店舗で提供して、立地がよいとはとてもいえないこの山間部に、県外からも多くの人を呼び寄せたのだ。「軌道に乗ったところでプロに任せる」とう方針の下、この店は2015年に民営化して、今は「里山イタリアンAJIKURA」となっている。ここ邑南町の本店ほか、広島三越をはじめ広島市内で3店舗を運営するまでになり、中四国地方のイタリアン業界では確固たる地位を築いている。

遠方からわざわざやってきて、地元産の野菜や肉の美味しさに驚愕する人たちが、この地域に住んでいる人に、誇りが回復するきっかけを与えてくれたのだ。これは「ajikura」の大きな功績だと思っている。

ただ高級レストランだけに、地元の人が気軽には立ち寄りにくかったのも事実。僕はみんなにもっともっと地元のことを好きになってもらいたい、地元の誇りをもって暮らして欲しいーずっとそう思っていたから、町の人がリピーターになってくれる店を作りたかった。それが実現したのが「香夢里」だった。

寺本英仁『ビレッジプライド』10-13ページ

 

里山のからだにやさしい

発酵レストラン  香夢里

プロデュースを務めたのは、NHKきょうの料理」「あさイチ」などの料理番組やたくさんの料理本で発酵食のレシピを紹介している料理家の井澤由美子さんだ。そう、彼女の代名詞とも言える「発酵」がこのレストランのキーワードになっている。

そんな井澤さん考案の「香夢里」の人気メニューが「46品目の発酵かご盛りランチ」(1300円)である。46もの食材が使われた郷土料理や創作料理が、邑南町の竹でつくった籠の中に並んでいる。「日々、幅広くいろんな発酵食と野菜を食べると、腸が活性化して元気になる」のだそうだ。

僕がいちばん嬉しかったのは、町の住民たちが何度もリピートしてくれることだ。

寺本英仁『ビレッジプライド』8-9ページ

邑南町にはajikuraと香夢里以外にも

蕎麦屋、カフェ、パン屋など

次々と開業しています。

 

初回はざっくりと

邑南町では何が起こっているのか、

を紹介してきました。

 

行政主導で食と農の事業を展開し、

町を再生させるに至った邑南町ですが、

ポイントはどこにあるのでしょうか。

 

邑南町では他の地域では考えられない、

常識を逸した取り組みも行なっています。

そこを紐解けば、地域づくりにおける

本質的で普遍的な考え方が見えてきます。

 

次回からは各項目をもう少し詳しく

紹介していきたいと思います。

島根県の田園回帰1%戦略とは?②

今回はカネやモノの流れなどの

地域内の循環の考え方に

触れていきたいと思います。

 

【お金の流れの現状】

まず重要なことは家計調査です。それなくしていろいろ組み立てても暮らしのようすがわからないし、一体どれだけお金が必要かもわかりません。

島根の山間部でも、今、年間の食費のナンバーワンは、何と外食で7万5,000円です。それからアルコール飲料4万円。全然、地域経済に貢献しないパターンになっています。

さらに、今や米よりもパンですが、パンは1世帯年間3万円ぐらい買っています。それが今、日本全国でもいろいろサンプル調査していますが、一人1万円買っています。皆さんの地元の人口に1万円掛けてください。けっこうな額になります。それだけ消費しているけれども、外からパンを買っていたら、これは所得も増えないし、定住も増えません。

それから、住居光熱費が11万円です。暖房を灯油とかでやると、どんどん外に流れていきます。むしろ、同時にそうやって考えたら、ここでこれだけお金がつくれるというリストにもなる。

さらに嘆かわしいのは教育費です。まだ小、中、 高校も地元にあるうちはいいのですが、下宿になったら、もう100万円超えます。教育費がなかったら、 かなり楽です。家計調査からわかるのですが、300万円ぐらいで暮らせなくはないのです。そういうモデルはつくり得る、住居費も安いですから。  

何を申し上げたいかというと、とにかく地元で食料やら燃料、昔は自給していたものをつくってない。 田舎でも金額ベースで地元産は5~6%。95%は外から買う。燃料たるや、ほぼ0です。どれぐらい取り戻せるかというと、食料、燃料だけでも仮に半分 だけでも地産地消にしたら、1,600人の村で2億円いきます。外の物を買っているからお金が流れ出ています。

どういう感じで取り戻すかというと、全国でも有名になりつつあるキヌヤというスーパーがあります。 これによって、毎年1%取り戻しています。誰でも15%の手数料払ったらここで地元産のものが売れます。手をかえ品をかえ、いろんな旬を変えて毎日出荷しています。こういう出荷農家の中から、今、 1,000万円プレーヤーが出ています。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー5ページ

キヌヤスーパー

【類似事例】

アルコールの地消地産

福島県二本松市東和

自分たちで飲む酒は自分たちで作ろう

ということでビールとワインを

作っています。

他にも東和では有機農業、農家レストラン

農家民泊など地域資源を生かした

コンテンツが満載です。

移住者に対するサポートも充実していて、

新規就農者が多い地区です。

 

【循環を生む体制】

毎年1世帯か2世帯入ればいいのです。農業をやるにしても最初から農業だけではやっていけませんから、冬場は林業、あるいはさっきの薪のエネル ギーとか、小さな拠点、共通の土木、こういうのをまとめて仕事をつくってあげるような仕組みが必要なわけです。

クローズアップ現代」にも紹介された出羽地区ですが、ここは12集落で構成され1,000人弱のところです。12集落ばらばらではなくて、自治会として一緒にやりましょう。そして農業も一緒にやりましょう、 とどんどん横つなぎが始まっています。この地域では合同会社出羽ができました。ここでは、例えば空き家活用もビジネスとして引き受けます。最近では、 薪ストーブまでつくっています。そういうので全部仕事を足していくと、2人ぐらい雇えるとなって、この4月から実際に農業大学を卒業した2人が定住しています。自治組織をつくるだけではなくて、今度は事業組織を車の両輪でつくっていくことが重要です。

日本の田舎の魅力は、アメリカとかオーストラリアみたいに特定の物が大量にとれることではなく、 ちょっとずついろんな物がとれることです。農家でも50、60種の野菜はとれる。ちょっとずついろんな物がとれる世界は、高度経済成長まではそれぞれの地域で息づいていたのですが、全部切り捨てられました。 でもそこには本当は豊かさがあり、自然の多様性にも応じた、実は潤いがあり、魅力があると思います。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー6ページ

【熱心な思いに反応する】

こういう人口取り戻しは、個々の集落に1組ずつ入っていくことですね。ですから、焦らなくてもいいのです。一方で、 誰でもいいから来て下さい、ではないはずです。私たちは、こういう暮らし、こういうふうに頑張っている、だから一緒に暮らそう。ぜひ、本当は自分の集落を自分で案内して入ってもらうことをやってほしい。 それから、本気でそこへ入りたい人はだいたい、通いますから。鉄則は、「選ばない地域は、選ばれない」です。これはうちの集落の祭りで、娘もいます。 祭りとか、草刈りとか手間かかることばっかりですが、 よく考えてみたら、手間をかけたものしか伝わっていません。記憶にも残らない。

あのおじいちゃんがいて橋ができたとか、あのおばあちゃんはいつも丹念にこういうことされていたとか、そういう頑張ってきた姿を記憶してつなげていくとこだと思いますね。地元をつくり直す中で、ここで一緒に暮らそうと言っていきたいなと思います。

人口というのは人生の数ですから、そういった記憶が紡がれる地域、すなわち地元を取り戻すということが非常に重要だと思います。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー7ページ

 

島根県の事例を見てみると、

住民の行政依存度は低く、

自分たちのことは自分たちで

決めて動いていこう、という

意識が見えますね。

 

地域の主体性が確立されているのは、

中山間地域研究センターを中心に

中越の回で話したような「たし算のサポート」

を地道に行ってきたんだろうと思います。

 

あとはいかに国のお金を使わなくても、

持続可能な地域を作っていくかだと思います。

ヤフーCSOの安宅さんによると、

海士町は美しい地域で移住者が増えていますが、

暮らしを維持するために住民一人当たり、

約250万円のベーシックインカム級の

公費が使われているとのこと。

このうちの7割はインフラを維持する

ためのコストです。

このコストをいかに削減していくか...

 

島根県を見てみると、

ローカルの課題とそれに対して

やるべきことが明確に見えてきます。

財政状況を見ると暗い気持ちに

なりますが、ポジティブにやるべき

ことをやっていくしかないですね。

島根県の田園回帰1%戦略とは?

島根県少子高齢化の先進地です。

20年後の日本の姿と言う方も

いらっしゃいます。

都道府県ランキングを見てみると、

生産年齢人口数...47位

人口集中度...47位

公共事業費...1位

地方債券額...1位

と、働き手が減少し税収が減少したので、

地方債を発行して公共事業を行い経済を

活性化している現状が分かります。

 

その中で島根県では

『田園回帰1%戦略』

なるものを実施しています。

書籍も出ていて、関連本も何冊か出ています。

https://www.amazon.co.jp/田園回帰1-戦略-地元に人と仕事を取り戻す-シリーズ田園回帰-藤山-浩/dp/4540142437/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1547620804&sr=8-1&keywords=田園回帰1%25戦略

この戦略を提唱しているのは、

持続可能な地域社会総合研究所所長の

藤山浩さんです。

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出所:市町村長セミナーの資料より抜粋

今回は、市町村長特別セミナーの資料

を引用しながら紹介をしていきたいと

思います。

【田園回帰1%戦略とは?】 

人口と所得を毎年1%取り戻す

地区人口の1%ほどの移住者を呼び込めば、

企業誘致・特産品開発に頼る必要はない。

島根県で開発した人口予測プログラムでは、

毎年、地域人口のおよそ1%にあたる分を

定住増加で取り戻せば、人口も安定し、

高齢化もストップし、子ども数も

維持できることがわかってきました。

 

【今、島根県で起きている田園回帰】

過疎が生まれた島根県ですごいことが起きていて、なんと最近、若い人が増えています。

全体として3分の1を超えるところで増えています。中国地方の都市部を含む平均より上回っています。さらに自分のパソコンで結果を出してうなったのは、この分布です。山の中に入ったところ、 さらに隠岐とかフェリーで2時間~3時間かかるような端っこに、今、人が入り始めている傾向があります。

来る側の立場はどうでしょうか。4年前に東京の IT企業で働いていたご夫婦ですが、私の家から30分奥の匹見町に入りました。お聞きしたところ、「中途半端ではなく、本格的な田舎に行きたい」と。これは、私も全くそうだと思います。それは人のつながりでもあり、自然とのつながり、伝統とのつながり。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー3ページ

半農半Xの働き方

今の若い人はお金儲けより、もっといろいろゆとりがあって、自分たちでつくり上げる仕事が欲しい。けれども、農業だけで400万~500万円稼ぐのは無理がある場合も多い。例えば、半農半介護とか、半農半看護婦とか、半農半杜氏とか、変わったところで半農半スキー場とか、いろんなパターンがありますけども、 半農半Xコースをつくる必要があります。しかも夫婦で合計4個まで柔軟に考えていったら、本当はそういうのが一番可能性があると思っています。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー4ページ

移住支援も仕事探しの支援も

多様で充実しています。

 

 【人口分析】

どの世代を何組、毎年入れるってことを含めた具体的な総合戦略が必要です。20代、30代、 60代の仕事のつくり方、家のつくり方は、違いますから。そのように具体的に考えて、的を絞ったやり方を総合戦略に反映させる必要があります。

人口1万の島根県邑南町のケースですが、 12の公民館区が中心になってしっかり地域づくりをやる方針をされています。必ず全ての公民館に1名は正職員を置き、あと2人嘱託職員で対応しています。さらに地域住民が、地域自治組織をつくって一緒に事務所を共有化して、地域づくりに頑張っています。それぞれの地元ごとに人口予測して、このままじゃこうなる。だったら何組ずつ入れたらいいかというような感じで頑張っています。

人口1%分の定住をふやすことで、実は地域人口の安定がかなりの地域で見込めます。これが一番最初に申し上げたいことです。1%に意味があるのではなくて、それをしっかり地域の住民の人と一緒に目標として共有することが一番重要です。それがわかったら、次は早いです。

藤山浩『田園回帰1%戦略〜地元に人と仕事を取り戻す〜』市町村長特別セミナー5ページ

 

続きは次回紹介しますね。

地場産業のアップデート事例6選③

前回に引き続き、

地場産業アップデート事例の

を紹介していきます。

最後は茨城県の2ケースです。

 

 

茨城県笠間市

やきもの地場産業を核とした

「農商工観光連携」と「ひとづくり」

茨城県のほぼ中央に位置し、交通の要衝で、豊かな自然と歴史・文化、多様な地域資源に恵まれた人口7万7千人の地方都市である。農産物は、栗、菊、米等の産地であり、地場産業」として「笠間焼」「稲田みかげ石」「清酒等がある。また、笠間稲荷神社親鸞聖人ゆかりの西念寺、「陶炎祭(ひまつり)」が行われる笠間芸術の森公園等に、年間約350万人が訪れる県内屈指の観光都市でもある。笠間市は、山口伸樹市長の強力なリーダーシップの下で、「官民連携」による「同時多発型・笠間モデル」と呼ぶべき多様な「まちづくり」の仕掛けを数多く実行してきた。本稿では、笠間市のそうした取組みの中から最近の事例を中心に取上げたい。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要 10ページ

 

笠間焼

最近における革新的取組みは、「茨城県立笠間陶芸大学校」開設である。

笠間焼産地の特徴は、「特徴がないのが特徴」と言われてきたが、今や「特徴がありすぎて一言では言えない」産地となり、個性的で多様な若手作家が輩出し活躍する「元気な産地」になりつつある。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要 10ページ

農業分野

山口市長の発案で「(財)笠間市農業公社」が設立され3年目を迎える。農業者の育成、6次産業化、販路拡大、商工会との連携による商品開発、観光協会の連携による農業体験ツアー企画、グリーンツーリズム推進事業(笠間クラインガルテンの業務委託)、ベトナムでの営農指導等、多様な事業を展開している。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要 10ページ

観光分野

・陶炎祭(ひまつり)…今年36回目を迎えたが、53万4千人の人出で賑わい、外国人客も増加。

・笠間発見伝…笠間市観光協会と一緒に2009年に開発した着地型旅行商品。順調に利用者が増加している。商品メニューも、陶芸や農業等の体験プランに加えて、古民家滞在プランや首都圏の中学生向けの「教育旅行」等も付加された

・かさましこプロジェクト…栃木県の陶磁器産地・益子焼産地、益子町との連携プロジェクト。

・ネットワーク構築事業…笠間市による「笠間ファン倶楽部」や笠間と東京圏をつなぐ「東京笠間ゆかりの交流会」

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要 11ページ を一部修正

このように笠間市では、

産業間連携と笠間市のサポートの元、

ものづくり・まちづくり・ひとづくりの試み

が活発に同時多発的に行われています。

その成果として、笠間ならではの

新しい文化が出来つつありますね。

 

 

茨城県筑西市

地元有力企業オーナーによる

「まちづくり・ひとづくり」

人口10万4千人の筑西地域の中核都市である筑西市は、「人と自然、安心して暮らせる共生文化都市」、「産業や観光、レクリエーション、文化をリードする魅力ある都市圏の形成」を目指している。当市には、そうした「ビジョン」を共有し、民間レベルで新しい「まちづくり」「ひとづくり」を推進しているオーナー企業経営者がおり、その拠点が「ザ・ヒロサワ・シティ」である。

当市を本拠地にし、茨城県を代表する企業グループに広沢グループがある。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要 11ページ

廣澤氏が筑西市(旧下館市)茂田に「ライフワーク」として四半世紀をかけて創り上げてきた「テーマパーク」が、「ザ・ヒロサワ・シティ」である。「シティ」は、「健康」(スポーツ)、「自然」(農業)、「文化」(芸術・教育)をテーマにした「テーマパーク」であり、100万㎡の敷地に、ゴルフ場、パークゴルフ場、オフロードコース、マラソンコース、貸農園、クラインガルテン、薬草園、温室(農園)、梅林、竹林、バーベキュー場、宿泊施設、美術館、図書館、歯科衛生専門学校、クラシックバイク・クラシックカーミュージアム、「北斗星」等の列車や小型飛行機の展示場等が展開されており、年間を通じて様々なイベントが開催されている。

現在も、①広沢美術館の新設(隈研吾の設計、収集日本美術品の展示と集客)、②地元若手芸術家・起業家のインキュベーション施設拡充(制作活動や展示発表の場の提供)、③未来型老人福祉施設の計画等が推進されている。

廣澤氏は、長年にわたり、本業での事業収益の一部と私財を上記「シティ」の建設の他に「地域・社会貢献事業」にも投じてきた。すなわち、①「ものづくり」では、公益財団法人広沢技術振興財団による中小企業や個人事業主に対する研究開発費助成(毎年2,000万円拠出し、5社程度に供与)、②「ひとづくり」では、公益財団法人広沢育英会による奨学金提供(茨城県内の高校生・大学生向けに毎年約1,500万円拠出、約30名対象)、若手芸術家の育成支援、③「まちづくり」では、郷土史研究、里山を守る会、ご当地映画制作等への寄付、大学生の「まちづくり」調査合宿活動支援(専修大学昭和女子大学等の学生を2年間で65名、延べ16日間受入れ)等を行ってきた。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要 11-12ページ

茨城県筑西市のケースは、

4つ目に紹介した福島県喜多方市

構図と似ていますね。

その地域の民間企業のリーダーを中心に

多様な活動が展開されています。

筑西市の特徴は、「ヒロサワ・シティ」。

圧倒的な存在感で、広沢さんの思いを

感じることができます。

地場産業のアップデート事例6選③

事例紹介の2回目です。

今回は山形県福島県

循環型地場産業のあり方を

見ていきたいと思います。

 

山形県長井市

長井市は人口2万8千人の

山形県南西部に位置する

「水と緑と花の町」です。

 

台所と農業を繋ぐ循環型まちづくり

長井市では環境と調和した

先進的な「まちづくり」の

取組みを行ってきました。

その一つがレインボープランです。

家庭から出る生ごみコンポスト化して有機農業で利用し、できた農産物を地域の食卓に、という計画である。台所と農業に、まちとむらに、現在と未来に「信頼のレインボー(虹)」をかけようという「循環型地域づくり」の官民一体型事業である。

推進委員会も発足し、市を事務局に生産者、消費者、商工団体、農業団体、医師まで広範な関係者の参画を得た。このように、「レインボープラン」は、農業・土壌再生と消費者の食の安全確保を図る「循環型まちづくり」を市民が発案し、市民と行政が協働で作り上げた事業である。

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出所:熊坂敏彦『「循環型地場産業」の創造』昭和女子大学現代ビジネス研究所2017年度紀要 8ページ

まちの消費者(約5,000世帯)の生ごみが分別回収され、市のコンポストセンター(堆肥センター)で約80日間かけて堆肥にされ、それが農協経由で農家に販売される。その堆肥を使用して栽培した農産物には独自の「認証制度」を設けて、ブランド化、高付加価値化を図っている。

その後(2004年〜)の展開

①農業生産…NPOの立ち上げ、体制強化

②販売面…市民市場「虹の市場」をオープン

福島県からの避難民支援事業

④六次化…商品・レシピ開発

⑤視察の受け入れ

 

 

福島県喜多方市

福島県喜多方市は、「ラーメン」(100軒以上)と「蔵の街」(4,000棟超)として全国的に有名であり、人口4万8千人の小都市に年間120万人もの観光客が訪れる。また、喜多方市は、飯豊連峰の良質な伏流水と良質な地元米を使った酒造業・醸造業が盛んな「地場産業の町」でもある。酒蔵は現在9軒あり、人口比で全国トップクラスといわれる。

 

「エネルギー自給圏構想」 

  酒と蔵とラーメンの町から発信

東日本大震災を機に、

老舗酒造を中心にして 

エネルギー事業を展開。

喜多方市の老舗酒蔵の1社である(資)大和川酒造店(創業1790年)の9代目佐藤彌右衛門会長(66歳)は、本業での経営手腕もさることながら、東日本大震災後、原子力に依存しない社会を作ることを目的に、NPO「ふくしま会議」を設立し、会津電力(株)や飯館電力(株)を立上げる等、再生可能エネルギー事業分野でも世界的に注目を浴びている。

2016年末現在、会津地域を中心に太陽光発電所を57か所、4,570kw(一般家庭約1,370世帯分)を建設済みであり、今後、太陽光発電所の増設、バイオマスエネルギー事業、小水力発電風力発電等を展開予定である。会津電力への出資者は、地元地銀、信金信組を含めた企業が40社、会津地域の自治体が6町村(磐梯町北塩原村猪苗代町西会津町、只見町、三島町)、市民ファンド等、広く多様である。

同社は、会津地域の年間100億円に及ぶ化石燃料購入代を地域内の再生可能エネルギーへ転換することを目標にしている。佐藤氏は、「食料とエネルギーの地域内自給を図って、会津地域を豊かにし、自立できる会津地域を創りたい。そして、山紫水明の日本の風土文化、豊かなコミュニティを再生するために、会津地域をそのモデル地域にしたい」と、熱く語っている。

 彌右衛門さんの記事。

 

このような地方自治体の枠を超えた民間主導の「循環型社会形成」、「地域づくり」構想の原点は、同氏の①「ネットワーク力」(人脈の広さ)、②「マーケティング力」(消費者のニーズを重視)、③「事業転換力」(酒蔵経営における製品高級化、自動化・機械化、有機農家との連携による有機米酒生産、観光酒蔵による小売・直売化、輸出・国際化等を業界内で先駆けて実施)、④先祖から受け継いだ「人間力」(祖父から教わった儒教精神、政治との距離感、文化人等との交流、父から学んだ合理的経営やまちづくりへの関与)等にあるように思われる。

前回までの3つの事例と違うのは、

圧倒的に民間主導であることですね。

 

私も福島県出身ですが、

今後の佐藤彌右衛門さんの

動向には目が離せません。 

 

地場産業のアップデート事例6選②

前回は地場産業を取り巻く社会背景や

環境の変化の経緯と、その中で

どのように革新が行われてきたのか、

タイプ別に紹介してきました。

今回は具体的な事例を見ていきます。

 

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出所:熊坂敏彦『「循環型地場産業」の創造』昭和女子大学現代ビジネス研究所2017年度紀要 6ページ

【1】青森県佐井村

条件不利地における

「連携」による「しごとづくり」 

「海・山」を起点とした「経済循環」が形成・維持されていた昔の「地域内経済循環構造」の仕組み(「海・山」からの収入、「商」の活気、地域の賑わい)からヒントを得て、地域再生の方向性を「内発型地域産業への着目」と「第6次産業の創出」に求めている。

そして、「人口減少・高齢化問題」に対応するため、生活の基盤となる「しごとづくり」が最も重要であるとして、様々な地域資源の活用による産業振興に努めている。具体策としては、水産業振興(「漁師縁組」事業、長崎大学水産学部との交流連携事業等)、地域資源の観光コンテンツ化(圏域内ネットワーク強化)、③観光業の成長産業化等があげられる。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要  6ページ

佐井村における循環型地場産業は、

漁業を中心として官民連携して

推進しています。

 

大日本印刷とは、

アプリ「YORIP」を共同開発し、

新たな観光振興を展開しています

他にもSHARPや地元食品企業と

六次化商品を共同開発しています。 

 

【2】千葉県神崎町

「発酵の里」をテーマにしたまちづくり 

老舗酒蔵と有機農業に取組んでいた農家等が集まり、平成20年に「発酵の里協議会」が作られたことに始まる。その後、2軒の酒蔵が個々に行っていた「酒蔵まつり」を町が間に入り商工会や地元商工業者、農家、周辺住民を巻き込んで、平成21年3月に町をあげてのお祭り「発酵の里こうざき酒蔵まつり」に発展させ、2万人の来場者を集めて成功させた。これが契機となって「発酵」をテーマにした官民一体の「まちづくり」が始まった。

町は、「まつりの日常化」、「リピーターづくり」を追求し始めた。そして、町の発酵文化発信拠点・観光交流拠点として平成27年4月に第三セクターの道の駅「発酵の里こうざき」を開設するに至る。

熊坂敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017年度紀要  7ページ

自治体がハブとなって、

地域資源であるひと・もの・情報

をうまく繋げていますね。

その中心には明確なビジョンを

持つ石橋町長の存在があります。

 

平成25年には、

ゆるキャラも生まれた。

毎年3月に開催される酒造祭り。

一度行ってみたい。。。

 

地場産業のアップデート事例6選

今回は、昭和女子大学の熊坂敏彦さん論文、

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「循環型地場産業」の創造 

―新時代創生・地域創生に活きる「地場産業」のDNA―

  ( 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要)

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を参照して、地場産業がどのように

アップデートを試みているのかを

紹介していきたいと思います。

 

地場産業とは…

自然環境の優位性や原料資源の存在、豊富な労働力や特殊な技術、さらに有力な商人の存在を条件として産地を形成している中小企業。

特性は、「①特定の地域に起こった時期が古く、伝統のある産地であること、②特定の地域に同一業種の中小零細企業が地域的企業集団を形成して集中立地していること、③多くの地場産業生産、販売構造がいわゆる社会的分業体制を特徴としていること、④他の地域ではあまり産出しない、その地域独自の「特産品」を生産していること、⑤地域産業とは違って市場を広く全国や海外に求めて製品を販売していること」があげられる。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  2ページ

 

現状と課題

地場産業」は、わが国の産業構造の変化の中で構造的な不況に陥り、企業数、生産額、輸出額などを激減させ、「空洞化」を余儀なくされた。

1985年から2005年の20年間に、産地内企業数は約12万社から約4万社へ3分の1に縮小し、「産地」の生産額は半減輸出額は5分の1に激減した。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  2ページ

 

こうした状況の中で、企業や産地は、

企業革新や産業革新を行ってきました。

この論文では次の地域を取り上げています。

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出所:熊坂 敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要 3ページ

カテゴリーは「ものづくり」だけでなく、

「まちづくり」と「ひとづくり」にまで

及びます。

その中で革新の内容は次の5つです。

①事業転換

②連携

③デザイン・ブランド

④コミュニティ

⑤人材誘致・育成

さらにこの5つのポイントには「革新的DNA」

つまり地場産業ならではのアップデートの核

のようなものがあると熊坂氏はまとめています。

第1は「事業転換力」である。「地場産業の歴史は、事業転換の歴史である」と言われる。「地場産業」には、経済環境の変化に適応していく「小回性」や「弾力性」があるとみられ、市場ニーズに即した「多品種少量生産」が求められるこれからの時代に相応しい特性を有している。 

第2は「連携力」(「ネットワーク力」)である。「地場産業」は中小零細企業が主体であるため単独での取組みには限界があり、「産地革新」成功事例の多くは、「ネットワーク」や「コラボレーション」等、様々なタイプの「連携」によるものである。そのような「連携」は、「地域イノベーション」を誘発するとともに、地域内の経済循環を高め、内発的発展を促す契機となる。 

第3は「デザイン力」である。もともと「地場産業」は、職人の手仕事や伝統的な技、産地作家の作品・芸術品に支えられており、そこで生み出された製品は「デザイン性」や「文化性」に優れ、「地域文化」や「日本文化」を代表するものも多い。そして、それらは「ブランド力」を伴って、内外の新たな市場に浸透していくことができる。 

第4は「地域コミュニティ創造力」である。「地場産業」は、大企業とは違って「磁場」に吸引されるように「地域」や「地場」と一体化しており、地域社会やコミュニティの構成員の一員としての面を持つ。そして、「まつり」や「地域イベント」においては推進リーダーやスポンサーとして機能し、地域資源として産業観光にも貢献する等、地域コミュニティ再生・創造力を有している。 

第5は「人材育成力」である。「地場産業」は、大企業と違って、「等身大の技術」「人間の顔を持った技術」で成り立っており、地域の若者に対して、人間的な仕事、創造的な仕事、喜びを与える仕事を提供する。そして「地場産業」が有する「人にとって優しい」という「人間力」は、有能な人材を育成することができる。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  3-4ページ

 

「循環型」地場産業という提案

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出所:熊坂 敏彦 昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要 4ページ

循環型地場産業とは…

「脱成長時代」「定常化社会」「持続可能な社会」において、自然(物質・エネルギー)循環生産循環金融循環が一体となった産業循環、さらに、「循環型地域・産業システム」の創生に貢献し、かつその構成要素となる「新しい地域の産業」である

図に示したように、従来の「地場産業」(製造業)を核にして、地域農業(農林水産業)、地域エネルギー産業、地域商業、地域観光・サービス・地域金融業等、地域内の他の「地域産業」と「連携」し、「ものづくり」だけではなく「まちづくり」や「ひとづくり」とも係りながら「地域内経済循環」を創生する「新しい地域の産業」である。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  4ページ

 

循環型地場産業の特徴

従来の「地場産業」の特性とは大きく異なる。

①歴史の古さや伝統性を超え、未来創造的なもの

産地形成には拘らない

③社会的分業には拘らず、様々な「連携」の下で水平的・垂直的な結合へ発展する

④地域の特産品(もの)を産出するだけではなく、地域内のサービス・情報・ノウハウ等のソフトも提供する

市場は、地域内、国内、世界と広い

⑥その主体は、地域の中小零細企業(製造業)だけではなく、個人、生業、協同組合、NPO/NGO等も含む等である。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  4ページ

 

国や自治体の役割

「循環型地場産業」が「持続可能な循環型社会」や「循環型地域・産業システム」構築の中心となって機能するうえで基礎自治体としての市町村の枠を超えた「広域連携」や「都市農村交流」、「海外とのネットワーク形成」等、「域外交流」推進による「外延的発展」も重要になる。そこをサポートすることが、国や地方自治体の新時代の「地域政策」「産業政策」の要となるであろう。

熊坂 敏彦  昭和女子大学現代ビジネス研究所 2017 年度紀要  4ページ

 

循環型地場産業に期待できる

地域再生と地方創生」

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①自然・環境の再生

②地域イノベーション

③地域コミュニティ再生

④地域文化創造 

 

次回は熊坂氏が紹介する地場産業

事例を紹介しながら、循環型地場産業

可能性に迫っていきたいと思います。